アカガメ大行進

店長、地球が、燃えているんです いやあれは、アカガメたちの 大行進だ

金髪美女「凡庸な男が『新世界ワイン』知っていたら惚れると思うの」

 

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甘やかすことが、常にいいとは限らないの。

男も、ワインも。

金髪美女

 

(*画像はイメージです) 

 

生暖かい風が吹きつけるある夏の日、僕は大学のキャンパスにある噴水に腰掛け、ぼんやりと思索にふけっていた。すると、ズボンのポケットのなかでスマートフォンが振動しはじめた。非通知電話だ。訝しみながらも電話にでてみると、数秒の無音のなかにかすかな息遣いを感じた。

 

「もしもし」

「凡庸な男が『新世界ワイン』知っていたら惚れると思うの」

 

例の金髪美女はそれだけを呟き、電話が切れた。僕が数秒間呆然としていると、さっきまでの壮大な思索はもう思い出せない。あたりには噴水の音だけが響いている。

 

 

「何がどうあっても、『新世界ワイン』を手に入れなければならない」

 

 

僕は急いでリカーショップに向かったが、どれが新世界ワインなのか分からない

するといつの間にか、青いサテンのワンピースに身をつつんだ金髪美女がそこにはいた。

 

 

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ワインってどこでできるの?

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「新世界ワイン、どこにあるんですか?」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「その前に、まずはワインの生産地がどこなのか、知る必要があるわ」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「フランスとか、イタリアじゃないんですか?」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「間違えてはないけど。実はもっといろいろな国で生産されているのよ。今は

 

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図1 旧世界と新世界(オレンジが旧世界、緑が新世界)

 

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plainアジアから南アメリカまで!とても広い範囲で生産されているんですね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「この地図のオレンジ色の部分、ヨーロッパで造られるワインを、旧世界ワインというわ

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「なら緑の部分が、新世界ワイン。ヨーロッパ以外のところですね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「古くからヨーロッパでさかんだったワイン生産が、近代になって世界各国に広まった形になるわね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「ロシアとか、ブラジルはワイン事業には参加していないんですか?」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「いいところに気がついたわね。ロシアやブラジルは、造らないのではなくて、造れないのよ

 

 

 

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図2 ワイン生産と緯度の関係図(赤の部分が生産地)

 

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「葡萄はね、北でも南でも、緯度が30~50度のあたりが生産に適しているのよ。きっとあなたが思っている以上に、気候や土地はワインの質に影響するわ」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「じゃあ、ワインはとてもデリケートなんですね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「デリケートだからこそワインなのよ。それともあなたは、ハンバーガーを食い散らかすような女を美人と呼ぶわけ?

 

それはそれで好きだと思った。

でも確かに、「好き」と「美しい」は全くちがうものなのだ

 

 

新世界ワインと旧世界ワインは何がちがうの?

土地

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「新世界にも旧世界にも共通のもの、『土地』と『地形』から教えるわ」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「やっぱり、栄養いっぱいの方がいいんでしょうね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「それが違うの。ワイン用の葡萄は、栄養のすくない土地の方がいいのよ

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「なんでですか?だっておいしい牛とかは、おいしいもの食べてるし、クラシック聴いたりしてるじゃないですか」

 

 

それを聞いた彼女は、少し笑った。そしてなだめるような口ぶりでこう言った。

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain甘やかすことが、常にいいとは限らないのよ。栄養豊富な土地だと、葡萄は大きくなりすぎて、だらしなくなってしまう。やせた土地のほうが、実がひきしまるから、ワインを造ることに好都合なの」

 

 

地形

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「地形も、あなどれないものよ。一般的には、丘の斜面のようなところがいいと言われているわ」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「作業するの大変じゃないですか」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「でもね、斜面は直射日光がよく当たるし、水はけがいいの

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「日光があたるほうが熟しますもんね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「そうよ。風も強いから、霜を防ぐこともできる。とくに春先にそだつ葡萄の新芽は、霜で凍ると死んでしまう

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「ワイン農家にとっては大打撃ですね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「農家の方はその時期、霜を防ぐためにいろいろと対策をしないといけない。風が強いと霜ができにくいから、斜面も一役買っているというわけ」

 

 

気候

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「新世界と旧世界のちがいは、気候ね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「ええっと、新世界のほうがあったかいんですかね?」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「地図を見ればなんとなく分かるわよね。正解。新世界のほうが暖かいから、葡萄は熟しやすい。ということは甘い

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「甘いってことは糖が多いから…」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「前のときの方程式覚えているかしら?」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain糖が多いってことはそのぶんアルコールが高くなりますか?」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「あなたも少しはやるのね。糖が多いとまた酸度が弱くなる

 

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図3 旧世界と新世界のワインの違い 

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「旧世界のなかでも、例えばドイツとスペインでは気候がちがうから、一概にはいえないわ」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「世界地図を思いうかべながらワインを選ばないといけないですね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「ワインの生産地を気にするようになるでしょう?」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain国産の牛かそうでないかくらいは気にするようになりますね」

 

 

まとめ

「フランス語に"Terroir"という言葉があるの」と彼女は言った。

 

  

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「テロワール、ですか?」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「そうよ。訳すのは難しいけど、おおよそ『葡萄をとりまく環境』といったところかしら」

 

 

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図4 Terroirがワインの味に影響する

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「土地や地形、気候のような要因のことですね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain葡萄は環境の影響をうけやすいから、"Terroir"を意識しないといけない。専門用語よ。覚えておくといいわ」

 

それから僕と彼女はリカーショップで、シャルドネという白ワインを買った。アメリカのナパヴァレーというところで造られたワインだから、これこそ『新世界ワイン』だ

 

僕らは自宅でテイスティングをした。白ワインのわりには、甘くない。食べ物には一番合いそうな気がする。でも何に合うのだろう。

 

 

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「あなた、前よりだいぶ博識ね」

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「それなりに、勉強してますから」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「いやだわ。昔のことを思い出してしまったわ

 

そう言うと彼女は微笑み、それからしばらく黙ってしまった。どのような思い出を想起しているのか、僕には分からない。

 

 

「あの、ちょっとセブンイレブン行きません?」僕は停滞した沈黙を振りはらおうとして、彼女を誘った。

 

 

「どうして?」と彼女は言った。

 

 

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「白ワイン飲んでたら、プリングルス食べたくなっちゃって」

 

 

言った瞬間に、間違えたとわかった。その証拠に、彼女は無言でグラスを机に置き、そのまま玄関に行こうとしている。

 

f:id:akaikamedai:20161011173635j:plain「いや、そんなつもりじゃ…」

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「あなた、ワインを舐めているわ」

 

 

 

 

f:id:akaikamedai:20161011173601j:plain「それじゃあ、惚れられないわね

 

 

弁解の余地すらなかった。僕はなんて馬鹿だったのだろう。

 

彼女は僕のもとからいなくなった。失言の気まずさだけが僕には残った。

 

 

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二人の出会いはこちらから。


こちらは女神サマが大活躍します。